オリエンタルランドが買われ続けるのはなぜか?「美人投票」の本質に迫る

今週の株式市場おさらい

今週の株式市場は大きく上昇しました。週前半の20,600円前後から、一気に21,200円(+約600円)まで駆け上っています。先週までの下落に怯える展開が嘘のようです。

上昇要因は、米中が10月に貿易協議を再開すると合意したことです。先週までの下落が両国関係の悪化だったことを考えると、その揺り戻しです。香港デモの沈静化観測や、イギリスのEU強行離脱の蓋然性が低下したことも株価上昇を後押ししました。

しかし、見れば見るほど、今年何度も見た光景に思えます。米中協議は破談と再開を繰り返し、株価を上下させてきました。今回の上昇も、その範疇を超えるものではありません。

足元では、景気減速の足音が刻一刻と迫っています。昨年末以降大きく減速した中国の生産活動が改善したという話は聞こえてきません。中国のPMI(製造業購買担当者景気指数)は、境目とされる50ポイントをなお下回ったままです。

中国PMI(出典:Investing.com
※50を下回ると景況感悪化とされる。

それもそのはずで、米中の貿易関係がこれだけ落ち着かない中で、企業経営者は拡大投資を行う決断はできないでしょう。一部ではタイやベトナムなどへ生産を移管する動きが見られますが、ハイテク産業の生産拠点はそう簡単に動かせるものではありません。

いまや世界経済は緊密につながっていますから、中国の景気が後退すれば、やがて日本、そして米国と順を追って波がやってくるのです。米国経済は今のところ好調ですが、単に後退の順番待ちをしているだけの可能性があります。

オリエンタルランドが買われ続ける理由

不安要素が消えない中で、なぜ株価が上昇するのかと言えば、世の中にお金が溢れているからです。リーマン・ショック後から続く金融緩和により、世界のお金はジャブジャブになり行き場を失っています。そこへ「FRBの利下げ」や「米中関係緩和」と言った短期的に儲かりそうな話があれば、急遽そこへ殺到するのです。

ここでポイントとなるのが「儲かりそう」というキーワードです。何でも良いというわけではなく、「誰が見ても良さそう」という銘柄にお金が殺到しています。機関投資家にとっては、そのような銘柄は既知のものであり、なおかつ関係者への説明がしやすいからです。まさに、経済学者のケインズの言った「美人投票」(※)の世界です。

(※)最も票数を集める「美人」を選んだ人が「正解」とされるゲーム。

例えば、ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランド(4661)は高値を更新し続けています

じゃあ私たちもオリエンタルランドを買えばよいのかと言うと、私はあまり賛同できません。

オリエンタルランドのPERは80倍にものぼります。これからようやく事業が軌道に乗るようなベンチャー企業なら理解できる数値ですが、オリエンタルランドは老舗、まして装置産業です。このPERを許容できるほど利益が伸びるとは想像しがたい状況です。

バフェットの師であるベンジャミン・グレアムの言葉に以下のようなものがあります。

株式市場は短期的には人気投票、長期的には重量計である。

つまり、短期では上記のような美人投票の側面がありますが、長期的には企業の価値を反映するというものです。

美人投票は、他の人の心を読むことが必要です。これは非常に繊細で、いつも正解できるとは限りません。だからこそ、短期取引の成功率はどんな人でも低くなるのです。

一方、長期の尺度となる企業の価値は、事業・財務を紐解くことである程度の範囲で推測することができます。少なくとも、今が割高すぎる、割安すぎるというのは判定できるものです。

だからこそ、私たちは企業の価値を見通し、それよりも安い値札の付いているものをコツコツと買っていくことが求められます。すぐには結果が出ないかもしれませんが、時間が経てば経つほど確実に成果が出せるのです。これこそが、長期投資の真髄です。

焦るほど失敗する。コツは「絶対的に割安な銘柄を、相対的に安いタイミングで買う」

今のような状況の時に、慌てて上昇に着いていこうとする人は、大抵失敗してしまいます。株価は上がったり下がったりを繰り返しますから、上がったときにあえて買いに行く必要などないのです。

まして、今上がっている高PER銘柄が更に瞬間的に上がったタイミングで掴んでしまったらどうなるでしょう。

PERは、その数値が高くなればなるほど人の心理に左右されやすくなります。相場環境が良いときは上がりやすくもありますが、逆もまた然りで、相場下落時には大きく値下がりします

人の心理は不思議なもので、上がっているときにはPERを無視して動きますが、下がりだすと急にPERが気になり出し、「割高だ!」と声高に叫ぶのです。

下落のスピードは急激ですから、そこで売ろうと思ってもなかなかうまくいかないものです。まして、普段から市場に張り付いているわけではない私たちならなおさらです。

私たちがすべきなのは、これとは全く逆の動きです。すなわち、成長性も含めて割安だと思われる銘柄に目をつけておき、それが瞬間的に下がったタイミングでこそ買うべきなのです。

これを私は「絶対的に割安な銘柄を、相対的に安いタイミングで買う」と言っています。

例えば、オリエンタルランドのような銘柄がPER20倍に下がり、なおかつ瞬間的な下落で5%下がったら、その時こそ買いなのです。

これを実践するためには、普段から良い銘柄をチェックし、しかし慌てて買わずに忍耐強く待ち、いざ下がったときに初めて買うことです。これを行うと、大きく買うタイミングはせいぜい年2~3回に限られます。

私自身も、この上昇を前にして「なぜあの時買えなかったのか」と焦る気持ちがないわけではありません。しかし、この「焦り」こそが投資における失敗のもとなのです。

急いで金持ちになる必要などありません。チャンスは一度逃しても、また必ずやってきます。原則を忠実に継続することこそが、着実に資産を増やす唯一の近道です。

割高な優良株へ投資すべきか?「株式の死」を招いた「ニフティ・フィフティ」の記憶

2018.07.05

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執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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