ゆうちょ銀行の株は買うべきか?ゆうちょ銀行の今後の動向についても解説

現在ゆうちょ銀行の株式売出しが行われており、多くの方に「買いませんか?」という案内が届いています。
そこで、「ゆうちょ銀行の株は買うべきなの?」と悩んでいる方も多いようです。
結論からいって、売出しで売られるゆうちょ銀行の株を買うのはおすすめしません。
今回はつばめ投資顧問が、なぜゆうちょ銀行の株を買うべきではないのかについて解説します。
また、ゆうちょ銀行の今後の動向についても、長期投資の視点から分かりやすく紹介します。

ゆうちょ銀行の株式売出しの概要

ゆうちょ銀行は、2025年3月に株式の売出しを行います。
売出しの規模は、約6,000億円とかなり大きいです。
ゆうちょ銀行が最初に株式市場に上場したのは2015年で、今回の売出しは3回目です。
時価総額が5兆円もある大きな銀行であるため、民営化による株の売出しは一度にできず数回に分けて行われています。
ブックビルディング期間中(株の購入申込期間)に、個人投資家は購入の抽選に申し込むかを決める必要があります。
証券会社によっては、申込締切日が異なるので注意が必要です。
また価格決定日は確定ではありませんが、3月10日から12日の間に最終価格が決まる予定です。
小規模な新規上場株では、株価が急上昇することが多く短期間で大きな儲けがでることがあります。
しかし、ゆうちょ銀行の売出しは大規模であるため多くの人が当選することから、価格の急上昇による値上がり益はあまり期待できないことはわかっておく必要があるでしょう。
なお、売出しは元々民営化された時から計画されていたことで、深い意図があるわけではありません。
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日本郵政グループの構造

日本郵政グループの構造についてみていきましょう。
「日本郵政」という大きな会社の下に「日本郵便」「ゆうちょ銀行」「かんぽ生命」が位置しています
「ゆうちょ銀行」と「かんぽ生命」は別々の会社として株式市場に上場しています。
これら2つの会社の上にある日本郵政は、政府に直接保有されている構造です。
日本郵政は、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の株式を50%未満まで減らすことで、民間企業として独立させようとしています。
一方で郵便事業を含む日本郵便は国の関与が必要なため、完全な民営化は行わない方針です。

ゆうちょ銀行の株式売出しの意味

日本郵政による株式保有率が50%未満になると、法律上の制約がなくなるため自由に事業を展開できるようになります。
これまでゆうちょ銀行は政府の「孫会社」として法律上の制約があり、民間銀行と同じような事業ができませんでした。
ですが売出しにより、日本郵政によるゆうちょ銀行の株式保有率が50%を下回ることになるため、法律上の制約がなくなります
すると、ゆうちょ銀行は民間銀行と同様の事業活動を行うことが可能になります。
現在のゆうちょ銀行は、国債や外国証券など有価証券での資金運用が中心です。
一方で、一般的な銀行のような企業にお金を貸したり、住宅ローンを提供したりする事業はほとんど行っていません。
企業向け融資や住宅ローンは国債運用よりも高い金利が期待できるため、今後こうした分野に参入することでゆうちょ銀行の利益向上が期待できるでしょう。
しかし、その実現性については考えるべき点がいくつかあります。
筆者である栫井は以前、証券会社で日本郵政関連の業務を担当していた経験がありますのでその知識をもとに解説していきます。
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ゆうちょ銀行の事業内容

先ほども少し述べましたが、ゆうちょ銀行の事業内容について改めて整理しておきましょう。
ゆうちょ銀行は、全国の郵便局で顧客から預かったお金である郵便貯金を運用する事業を行っています
もともとは、預かった預金を国債のみで運用するというシンプルな仕組みでした。
預金の金利よりも国債の金利の方が高いため、その差額が銀行の利益になるという単純なビジネスモデルです。
しかし民営化後は、企業として利益を上げる必要が出てきます。
日本の低金利環境だと国債だけでは十分な利益が得られないため、外国証券の購入を増やしてきました。
現在では国債よりも外国証券の保有額の方が多くなっており、全体の約4割を占めています。

ゆうちょ銀行の3つの問題点

ここでは、ゆうちょ銀行の不安要素となる問題点について見ていきたいと思います。

ゆうちょ銀行の不安要素は、主に3つあります。

  • 1.ゆうちょ銀行は含み損が1.4兆円
  • 2.ゆうちょ銀行は金利上昇の追い風を受けにくい
  • 3.ゆうちょ銀行の預金残高は減少している

それぞれみていきましょう。

1.ゆうちょ銀行は含み損が1.4兆円

2025年1月31日の発表によると、ゆうちょ銀行は有価証券の含み損が1.4兆円あります。
なお、この含み損はPL(損益計算書)には表れないため注意が必要です。
ゆうちょ銀行は毎年約5,000億円の利益を出していますが、その裏には1.4兆円もの含み損があることをわかっておきましょう。
これは、ゆうちょ銀行が国債中心の運用から外国証券に資金を移してきた1つの歪みともいえます。
しかし巨額の含み損を抱えていますが、外国証券に投資をすることで利益がでていることも確かです。
外国証券からの利息収入が9,317億円、国債からの利息1,837億円となっていて資金調達費用を引くと6,762億円の利益がでています。
つまり、リスクはあるものの現在の利益は外国証券によって支えられているという側面もあることも理解しておきましょう。

2.ゆうちょ銀行は金利上昇の追い風を受けにくい

日本銀行は金利引き上げの姿勢を示しており、今後金利が上昇する可能性は高いです。
そのため銀行業界では、金利上昇による業績向上が期待されています。
しかし、ゆうちょ銀行の場合は状況が少し異なります。
なぜなら、ゆうちょ銀行は運用資産の多くが外国証券中心なので、日本の金利上昇の恩恵を受けることが難しいという問題があるからです。
また現在、アメリカは金利引き下げようとする傾向があります。
外国証券の含み損は金利上昇により増加していますが、金利が下がれば含み損は減少します。
しかし、内外金利差が縮まり円高になれば為替による損失が発生するでしょう。
このように、ゆうちょ銀行は金利上昇の恩恵を直接受けられる銀行とは言い難いです。

3.ゆうちょ銀行の預金残高は減少している

直近では、ゆうちょ銀行の預金残高が減少しています。
預金残高のデータを見ると、2022年までは増加していましたが、2023年に入って減少に転じています
これは、高齢者が貯蓄を取り崩しはじめた可能性を示しています。
これまでの日本の銀行では、高齢者の方々が貯蓄志向であることから預金が増え続ける傾向がありました。
そのため、利益率が低くても規模の拡大により利益を維持できる環境にありました。
ですが、最近その状況に変化が見られています。
ゆうちょ銀行にとって預金残高の減少は、将来の利益にもマイナスの影響を与える可能性が高くネガティブな要因といえます。
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ゆうちょ銀行の今後の動向

ゆうちょ銀行は今後、法律で規制されていてできなかった事業ができるようになります。
そこで、新規事業となりえる個人向け融資と法人融資についてみていきます。

個人向け融資

新しい事業として、住宅ローンなどの個人向け融資が可能になります。
ですが、現実は金利競争が激しく厳しいです。
メガバンク同士の競争に加え、楽天銀行やPayPay銀行などのネット銀行も参入しており、金利の引き下げ競争が激化しています。
このような状況でゆうちょ銀行が新規参入しても、大きな利益を上げるのは難しいでしょう。
地方の高齢者に住宅ローンを売るのは現実的ではありませんし、若い世代は金利の低い他の銀行を選ぶ可能性が高いです。
このことからも、ゆうちょ銀行が個人向けローンで収益をあげるのは難しいと考えています。

法人融資

企業向け融資については、さらに厳しい状況です。
現在、地方銀行でさえ貸出先に困っており、銀行が多すぎて貸出先が不足している状態である「オーバーバンキング」と言われています。
また、企業側も以前ほど借入を望んでいません。
さらに企業向け融資にはリスクが伴うため、貸出先を審査する能力が必要ですがゆうちょ銀行には現時点でそのようなノウハウがあまりありません。
他の銀行と一緒に融資する「シンジケートローン」という方法も考えられますが、それでも高い利益を期待するのは難しいでしょう。
したがって、すぐに利益が拡大するというシナリオは描きにくい状況です。
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ゆうちょ銀行の投資判断の要素

ここまで、ゆうちょ銀行の事業内容や今後の動向についてみていきました。
ここではゆうちょ銀行への投資判断をする際の要素として、バリュエーションの観点と株価の観点からみていきたいと思います。

ゆうちょ銀行のバリュエーション

このような状況を踏まえてゆうちょ銀行への投資を考える場合、株価の割安さと配当金の高さが重要なポイントになります。
現在の指標を見ると、PERは13.4倍、PBRは0.57倍、配当利回りは3.75%となっています。
PERは13.4倍と、利益の少ない銀行としてはやや高めの数字です。
また、PBRは0.57倍と1倍を下回っているため一見割安に見えますが、収益性の低さを考慮する必要があります。
ROEは3〜4%と非常に低く、一般的に良いとされる8%以上には及びません。
また、他の銀行と比べても低い水準です。
配当利回りは3.75%で、低くはありませんが特別高いわけでもありません。
たとえば、三菱UFJや三井住友銀行でも3.1%あります。
そのためわざわざ将来性に不安のある銀行に投資するよりも、メガバンクを選ぶ方がよさそうです。
短期的には、株式売出しというイベントに注目した投資家の参入で株価が上昇する可能性はあります。
しかし、長期投資の観点でみるとあまりおすすめはできません。

ゆうちょ銀行の株価

最近の株価は比較的好調なようです。
また、ゆうちょ銀行の資料でも「前回から株価が上がっている」点が強調されています。
ですが、これは前回の売り出し時の株価が特に安く、今回はたまたま高い時期に当たっただけだといえます。
なぜなら、最近の株価は上がっていますが上場してからの全期間で見るとマイナスだからです。
証券会社の立場から見れば、金利上昇への期待も高まっている今が売り時といえます。
売る側の事情を読み解くと、株価のピークである可能性もあります。
そのため、投資をする際は慎重に検討することがおすすめです。

まとめ

今回は、売出しが行われるゆうちょ銀行の株は買うべきなのかについて解説しました。
ゆうちょ銀行は、外国証券に依存した運用で含み損を抱えているためリスクが大きいです。
また、新規事業への参入は市場環境から見て簡単ではなさそうです。
他にも、預金残高が減少傾向にあり、将来の利益に不安があることからも長期投資の観点からみるとあまりおすすめできません。
しかし投資判断は個人の状況や考え方によって異なりますので、これらの情報を参考にして慎重に判断していただければと思います。
このようにつばめ投資顧問では、長期投資や個別企業の分析などを行っています。
つばめ投資顧問は長期投資の専門としているため、もし長期投資に興味がある方は無料メルマガへ登録してみてください。
いま無料のメルマガに登録すると電子書籍である『株式市場の敗者になる前に読む本』が無料で読めます。
この機会にぜひ読んでみてはいかがでしょうか。


執筆者

執筆者:栫井 駿介

栫井 駿介(かこい しゅんすけ)

つばめ投資顧問 代表
株式投資アドバイザー、証券アナリスト
ビジネス・ブレークスルー(株)「株式・資産形成実践講座」講師

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